慣れてないのですみません。と謝っておくブログ

詩を書いたり書かなかったりします。

空き地にて

 ランチを食べようとホテルの和食レストランにゆく。ガラスケースに入った見本の御膳には価格が出ておらず、「私たちの食べる処ではないね」と言い戻ることにする。 
 一緒に覗きこんでいた姉家族は、「ここでいいね」と店内に入ってゆく姉と甥と見知らぬ若い娘。姉が早くに産んでいれば、居たであろう年頃の娘。
 建物の裏の空き地を通っての帰り道、錆びついた網目の足場が建物の壁面の幅に、二階天井の高さほどで付いていた。自動チェーンで下からそこまで上がれるらしい。
 景色を見たくてみんなで上がってみることにする。壁面はまだ上に続くから、空き地を上から覗きこむ形だ。空き地の向こうのトタン屋根の建物群は小屋や倉庫など人気のないものだ。
 上から下を覗きこんでほどなく、どこからか豚が2匹現れてうろつき始めた。
 「豚がいるよ」言うなりすぐさま何物かに咥えられた。狼のようだ。
 もう1匹の豚にも噛みついていた。狼は2匹いた。
 私たちは恐ろしかったが、高い場所に宙づりになっている今の状態は安全と言える。にしても逃げることも出来ないので、上から狼たちが豚を食べつくすのを待つよりほかなかった。
 ひと一人通れるほどの網目の足場に横向きになり、両足を曲げて膝を抱えると壁面に身体をもたせかけて狼たちの食事が終わるのを待った。食事の終わった狼たちがどこかに行かないと下りられぬのだし、気が付いた人が助けにくるとも思えなかった。
 長い長い時間のようで、私たちは眠ってしまった。
 目覚めると空き地には、豚が食われていた場所に骨があった。大きくもない動物の骨で生きていた頃のままの形を保っているようだが、肉も皮も内蔵もすべてきれいに取り払われていて、まるで微生物が分解した後の時間まで経ったようだ。
 豚が食われていた二か所とは別に、空き地から続く道に向かって何か大きい骨もある。大きさからいって馬ではないかと思う。これもまた、化石のように骨だけが馬の形のように地べたに残っている。
これも食べたとして、また骨がこれだけきれいに骨だけ残っているというのは、寝入ってからかなりの時が経ってしまったのではないだろうか。すっかり私たちが忘れ去られてしまうほどの。
 そう思って下を覗いていると、またどこからか二匹の狼がうろつき始めた。骨の周りや草地を円を描くようにうろついている。
 私たちが来た方角と同じ道から、70代と思われるお婆さん達がおしゃべりしながら空き地に入って来た。すぐには狼のいることに気が付かない様子で、二人、三人と固まって空き地に踏み込んだ。
 「狼がいるから逃げてー」
私たちは口ぐちに叫んだ。
 狼たちは、まだぐるぐると円を描いてうろついていたが、入り込んできた人間に気が付いて寄っていき始めた。
 すぐに食おうというではないが、近づいてきた狼にお婆さん達は、散りじりになりながらも恐ろしさでなかなか動けないようで、その場所から逃げ出せないでいる。
 「今はまだお腹が膨れているだろうから、今のうちに逃げてー」
 私は声を限りに叫んだ。
 お婆さんたちが助かって、狼がここにうろついている事を伝え、それによって私たちが助かることを期待していたかもしれない。
 あくまでも私たちは安全であるかのような場所にいるのだが、野ざらしに過ごすには寒さも身にしみてくる。
 お婆さんたちが食われることなくも逃げ切れないで、狼を避けて彷徨っているうちに、空き地を抜けた向こうの道から男性が来て、空き地に入る手前でこの状況に気付いたようだ。
 慌てて来た道を引き返してしばらく、猟銃を持った数人達の後ろに付いて戻った。
 指示する立場の恰幅のよい男が中心になり空き地に踏み込み始めると、銃を撃つまでもなく狼たちは危険を察知して逃げ出した。
 動けないで立ちすくんでいたお婆さんたちのほうに寄り声をかけると、皆を集め始めたあたりで誰かが私たちに気が付いてくれた。
 お婆さんたちよりはるかに安全な場所に居て、上から助けてくれとは声が掛けにくかったのだ。
 お婆さんたちが空き地を抜けてホテルのほうへ連れられてゆくと、恰幅のよい中年の男が若い男に声を掛けた。
「あの足場は下ろせるのか」
「動かせますよ」
そう言うと若い黒メガネの男は、錆びついた足場の柱にかけより操作をしてくれたようで、今私たちは地表に降りつつある。

 

 

 

<平成15年12月2日の夢>